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ハリウッドの丘から/折原恵のロサンゼルス通信 Kei Orihara LA blog

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2019年 10月 04日

人間が死ぬこと 2 ---- 母の選択


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6/29 8:30 AM


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前回は、長いあいだ更新できなかった言い訳に母の死という極私的なことを持ちだしてしまいましたが、こういう話は長々としてはいいけないと思い、へんな終わり方をしてしまい、かえってそれがまたつまずきとなって、またまた休んでしまいました。

それなら、そのへんな終わり方を正して、それで本当に終わりにして、心機一転、もっと楽な気持ちでロサンゼルスやアメリカや日本のことを書いていこうと思い直したところです。

というわけで、「どうせ死ぬんだから食べてから死にたい」と言った母のために、次の日にはSTさん(言語聴覚士)が来て、嚥下テストが行われました。それまで胸のあたりから管を入れた中心静脈栄養だけで2ヶ月近く、口から食べること、水を飲むことさえもしていませんでしたから。

やはり飲み込み能力がかなり落ちていたので、母の大嫌いなトロミ流動食が始まりました。「うなぎとお吸い物」を希望していた母ですが、そのトロミ食でさえ、とりあえず一口目は「美味しかった!」と。

すぐに感染で40度の熱を出し、それにも医者は抗生物質で戦い、強い母は乗り越え、また日常を取り戻し、連続ドラマの続きを見、それをくりかえして3度めの病院からの電話で早朝に駆けつけました。そして子どもたちの呼び声に首を縦に振りながら、みなの前で静かに息を引き取ったのです。

看護師さんたちが身体を清め服を着替えさせているときに、廊下で主治医が言いました。
「(略)、私の力足らずで、、、(略)」と。

こういう言葉を心からの態度で言える医者はそうはいないと思います。
こちらの方は、ほんとうによくやっていただき感謝の言葉もないというくらい、感謝しか残らなかったのですから。

しかし私は、この市立病院の医療従事者たちの優れたそして気持ちの良い仕事ぶり、ことに若い主治医の極めつけの優秀さ、誠実さと人間性(そのうえユーモアと笑顔)に、唸ることばかりでした。

もう食べることはできない、といわれた体中管だらけなのに頭だけは元気な97歳の、骨と皮だけになった病人に、少しずつ覚悟を決めてもらい、しかし同時に本人は最期の日まで前向きな気持を持ち続けていられた、もう絶妙な患者に対する笑顔なのです。

そして霊安室に家族と医者と看護師さんたちが集まり、夜中を担当した看護師さんが私に母の最後の言葉を伝えてくれました。
「わたし、今回は駄目みたい」とおっしゃいました、と。(これにはグッと来ましたね)

ものすごく忙しいはずの主治医も並んで、病院の外まで遺体を載せた寝台車が出て行くのをみんなで見送ってくれました。こんなに大事にされて、母は本当にラッキーだったと胸が熱くなりました。

こういう医療が、国民健康保険や高齢者保険のもとできちんと行われている日本という国、ときどきすごく評価できる部分がありますね。
(アメリカでは、医療に関して良い話をほとんど聞いたことがありませんから)








by hollywoodland | 2019-10-04 10:45 | 日本/日本人 | Trackback | Comments(0)


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